この人の映画のことだからガラガラだろうな〜なんて思ってたら
結構席が埋っててビックリ。
予告で興味を持たれた方が多いんですかね、お客さんのほとんどが年配のご夫婦でした。
さて、北野武監督と言いますと、最近の「TAKESHI‘S」や「監督ばんざい」といった作品が
ひどい評価で、二回もきいちご賞にランクインしてしまうなど、どうも芳しくありませんでした。
僕も「この作品、ひょっとしたらやばいんじゃないのかな。」と不安を感じました。
で、どうだったかと言いますと・・・。
オススメです。
正直言って、感動しました。
前二作のような無茶苦茶で破綻気味なではなく、
筋の通ったストーリーの元に作られておりました。
突き放した視点から描かれた主人公、味のある脇役達など
北野映画の良い所が前面に出ていました。
演出面においても、オープニングで始まるギリシャ神話のアニメには戸惑いますが、
それ以外は、「Dolls」以前の長回しや「キタノブルー」と呼ばれる青みのかかった映像
静かながらも残酷さを感じさせる暴力表現などが久々に観られ、
従来のファンにとっては嬉しい出来となっていると思います。
全体的なストーリーは、まさに「芸術家残酷物語」と言ったところ
絵の才能があるかどうかすら分からないダメな男がひょんなことから
勝手に才能があると思い込み、人生の全てを絵につぎこんでいく、といった話。
一人の男の人生に焦点を当てた人間ドラマであって、内容はかなり濃いです。
ひょっとすると「キッズ・リターン」よりも人間描写に力が入っているかもしれません。
少年期、青年期、老年期の三つの章立てがなされており、
そこには様々な悲劇、喜劇があります。
その中には、北野映画の特徴とも言える冷酷な”死”の描写も数多く含まれています。
子を残して自殺を図った真知寿の両親。
少年時代の真知寿の唯一の友人となったどもりの男。
文字通り「体を張って」芸術を作り出そうとする芸術学校の生徒達。
真知寿に様々なアドバイス(?)をくだす画商。
そんな様々な出来事に影響を受けながらも、ひたすら試行錯誤を繰り返していく真知寿ですが
それでも全く売れない、評価されない。
何故ダメなのか、単に才能がないからなのか。
その答えについては直接本編では語られることはありませんが、
ラストでの真知寿の行動がそれを明らかにしています。(長くなるので後述させていただきました。)
これは観る人によってかなり解釈が変わると思いますが、
かなり残酷なんじゃないかな、って思うんですよ。
いえ、グロテスクだとかそういうのじゃなくて、精神的に。
映像から見ても、ストーリーから観ても、かなり良い映画であると思います。
是非、ご覧になって頂きたい映画です。
観た人によって解釈は変わりますが、決して難解な映画ではありません。
よろしければクリックをお願いいたします。
↓真知寿が成功しなかった理由について(ネタバレ)
観た直後の感想なので、また色々と変わってしまうかもしれません。
画家の言うとおり、真知寿には才能があります。
じゃあ何故失敗したのかと言うと、真知寿はあまりにも周りの評価を気にしすぎたのだと思います。
画商からあれがいいこれがいいと言われ、その都度様々な作風にチャレンジしては
またダメ出しを食らう、といったことを真知寿は何十年も繰り返してきたわけですが、
結局、唯一「評価された」と言えるのが、喫茶店に飾られていた風景画でした。
一番初めに画商にダメ出しされたあの船の絵です。
もし、真知寿が画商の言うことを無視して風景画を描き続けていれば、一人前の画家として成功
していたかもしれません。現に、美術学校時代の友人はアメリカで独自のアート・スタイルを
貫き通したから成功したのではないでしょうか。
真知寿は良い”芸術”を作って成功するため、様々なものを犠牲にして試行錯誤を繰り返してきましたが、
結局、その試行錯誤の努力が逆に真知寿をどんどん成功から遠ざけていったという皮肉な結果を生み出しました。
これは主体性を全く持たない真知寿という人間が、画商と言う金銭的な要素が絡む人物から
見た、それも一個人による”芸術”をそのまま鵜呑みにしてしまったがゆえに起こった悲劇であり、喜劇です。
ラスト、包帯男になった真知寿は黒こげのコーラの缶を20万というふざけた値段で売っています。
この行動は真知寿が自分のやってきたことがいかに馬鹿馬鹿しく無駄なものであったか、画商から
散々言われてきた”芸術”の価値がいかにデタラメで曖昧なものであったか、という想いを
ある種の怒りとやるせなさをこめて表現したものだと考えます。
タイトルの「アキレスと亀」は文字通り「アキレスと亀のパラドックス」が元ですが、
何故アキレス(真知寿)が亀(成功)に追いつけないのかと言うと、それは一定のルール、
決められた法則の中での出来事だからであり、現実には簡単に追いついてしまうでしょう。
真知寿の場合も同様で、周囲の評価という「法則」で無意識に自分を縛っていたから
成功と言う名の亀に追いつくことができなかったのです。
この映画のメッセージは何か、この映画は何が言いたいのかと言うと、
このようなことだと思います。
芸術の善し悪しなんていい加減なものなんだから、
周りの言うことなんか気にせず好きにやればいい。
その方が案外成功するかもよ
なにゆえ、我々はアキレスにならなければならないのか。
ラストシーン、チャップリンの名作「街の灯」を彷彿とさせるシーンでしたが・・・。


