うまい棒めんたい味の如く映画を語る

ちょっぴり辛く、どちらかと言うと甘い感じで 映画をレビューしていきます。 ホラー、サスペンスが中心です。

第一回書籍レビュー「烈火の月」

烈火の月 (小学館文庫 の 1-1)烈火の月 (小学館文庫 の 1-1)
(2007/01/06)
野沢 尚

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【あらすじ】
千葉県愛高署の我妻諒介は署内でも群を抜く暴力刑事。
特技は「笑いながら人を殴る」こと。
毎日といって良いほど問題を起こしては、上層部の悩みの種となっている。

アクアラインの開通による人口増加によって凶悪犯罪が激増した愛高では
巨大な麻薬組織が幅を利かせ、巨大な麻薬取引のマーケットに成り下がっていた。

我妻はマトリの女捜査官烏丸瑛子とコンビを組んで捜査にあたるが、
やがて恩人の岩城警部が麻薬組織とつながりがあることを掴み・・・・





1989年の北野武監督作品「その男、凶暴につき」(以下「その男〜」)は
当初は「灼熱」というタイトルで野沢尚氏が元脚本を執筆していましたが、
脚本は大幅に改訂され、映像化されたシナリオはまったく異なるものでした。

この「烈火の月」は野沢氏本人によって
改訂前の「灼熱」に現代的な要素を取り入れてリライトされた作品です。





リライトされたと言うと、本来の「その男〜」を否定しているように受け取られてしまいそうですが、
決してそうではありません。

野沢氏は当時、自身の脚本が跡形も無く吹き飛ばされてしまった
無念さを抱えながら映画館で「その男〜」を観た時
「悔しいけれど傑作だと感じた」とあとがきで述べています。

また、この作品の第一章のタイトルは「その男、凶暴につき」
そして、その章で一番最初に我妻がとる行動。
野沢氏は「その男〜」にある種のオマージュを捧げているのです。




物語は「その男〜」のテイストを取り入れながらも、やはりというべきか
全く異なる展開を見せます。

たとえば、我妻の家族構成について。
「その男〜」では白痴の妹と二人暮らしという設定でしたが、
この作品では過去に離婚歴があり、娘が一人います。

離婚の原因は我妻の家庭内暴力。
その暴力の現場を度々目撃していた娘は精神的なダメージを受け
その結果、衝動的に他人を傷つけて自分の怒りを発散するといった
父と同じ、いやそれ以上の凶暴性を内に抱えてしまいます。

自分の身勝手な暴力が、自分の娘に受け継がれようとしている・・・。
遊園地で無闇に暴れまわる娘の異常な姿を見た我妻は
深い罪悪感を覚えます。

「その男〜」の我妻は自分の凶暴性に対して、ある意味開き直った感がありましたが、
この作品の我妻は自分の行動の代償に対して苦悩しているような気がします。




さらに大きく異なる点としましては、マトリの捜査官烏丸瑛子の存在と
後半の展開および結末、そして作品に内包されたテーマ。

烏丸瑛子もまたマトリの中でのはみだしもので、
我妻とタメをはるほどの度胸を持った強い女性です。

彼女を「その男〜」の登場人物に置き換えるとすれば、我妻の妹だと思います。
性格、設定などは大きく異なるものの、ある「共通点」があります。
その「共通点」を迎えた後の二人の末路、この点からも「その男〜」との
大きなテーマの違いが読み取れます。

そして、後半の展開と結末。




作品の結末、他の北野作品に関する若干のネタバレあり




清弘との対決など、いくつか同じところは見られますが
「その男〜」とは全く異なるラストを迎えます。

「その男〜」の我妻が最後に射殺されてなければ、
このような結末になっていたかもしれません。

ある意味ハッピーエンドともとれますが、一方ではバッドエンドともとれます。
もう少しひねって考えてみると、「その男〜」のあの後味の悪いエンディングは
実はこれでよかったのだといった見方もできるかもしれません。

多大な犠牲を払いながらの勝利。この後我妻はどこへ行くのか・・・・。




我妻と娘の最後の会話、烏丸瑛子の決断などを通して
著者はこの作品にこめられたテーマを強く訴えかけようとしています。

著者の野沢氏は既にお亡くなりになっていますが
この作品を執筆していた時、非常に辛い状況にあったのでしょう。
残念でなりません。








現代の腐敗した社会でも己を貫く男を描いた
「その男〜」にも勝るとも劣らない良作ハードボイルドでした。
オススメです。




テーマ:文学・小説 - ジャンル:小説・文学

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